統計学第1回講義ノート

統計学 第1回のポイント:社会におけるデータ・AI利活用①

2026年9月28日

はじめに:なぜリハビリの専門職が統計を学ぶのか

第1回のテーマは「なぜリハビリの専門職が統計を学ぶのか」でした。理由は3つあります。患者さんの「この訓練、効果あるの?」に根拠(エビデンス)で答えるため、卒業研究や国家試験の土台になるため、そしてAIやデータを使う医療現場で、結果を鵜呑みにしない力を身につけるためです。

授業では、データサイエンスとは何か、社会でどんなデータが集められているか、データやAIがどこで使われているか、の3つを扱いました。この記事では、その要点を臨床の場面に置き換えて振り返ります。

1. データサイエンス=データ×数理モデル×専門知識

データサイエンスとは、データに数理モデル・計算技術と専門知識を組み合わせ、新しい知識と活用のシナリオを生み出すことです。

臨床で考えてみましょう。入院患者さんの歩行速度や握力を記録し(データ)、統計で分析し(数理モデル)、リハの知識で解釈すると、転倒しやすい人の特徴が見えてきます。それを退院前の予防指導に活かすところまでがデータサイエンスです。現場を知る皆さんだからこそ、データを役立てられるのです。

19世紀のナイチンゲールも、戦地で兵士の死因を集計し、戦傷より不衛生による病気が多いことをグラフで示して衛生改革を実現しました。ではなぜ「今」注目されるのか。コンピュータの性能、最適化技術、データ量という3つのブレークスルーが重なり、電子カルテやウェアラブル機器から集まる膨大なデータ(ビッグデータ)を扱えるようになったからです。

AIとは「賢いプログラム」全般を指し、人間のように考える機械に限りません。今のAIの多くは、将棋AIや画像診断AIのように1つの仕事に特化した特化型AIです。「一芸の職人」と覚えてください。

2. データには5つの出どころがある

データは、調査・観測・実験・行動ログ・マシンログの5種類に分けて覚えます。

種類一般の例リハ・医療の例
調査国勢調査、アンケート患者満足度調査
観測気象データウェアラブルの心拍・歩数
実験A/Bテスト新旧の訓練法を比べるRCT
行動ログ検索履歴、GPS活動量計の歩数記録
マシンログ工場設備のセンサー医療機器・介護ロボットの記録

特に大事なのは観測と実験の違いです。観測は起きていることを測るだけ、実験は条件をそろえて比べます。患者さんをランダムに2群に分け、訓練法だけを変えて結果を比べれば、その差は訓練法の効果と考えられます。原因と結果(因果)を調べやすいのは実験です。第4回で詳しく扱います。

もう1つの分け方が、構造化データと非構造化データです。検査値の表のように「表に入る」データが構造化データ、診療録の自由記述やレントゲン画像、歩行動画のように「表に入らない」データが非構造化データです。レントゲンに「骨折あり/なし」と正解をつける作業(アノテーション)は手間がかかるぶん、AIを育てるうえで貴重な資源になります。

3. データ・AIはリハビリの現場でも使われ始めている

データとAIの活用は、研究開発やマーケティングから製造、文化活動、ヘルスケアまで広がっています。領域が違っても、使われる技術(予測・推薦・画像認識・生成)は共通することが多いのがポイントです。

リハビリテーションに引き寄せると、活用のイメージは4つです。歩行動画をAIで解析する「評価」、退院先や転倒リスクを見積もる「予測」、ロボットや遠隔リハによる「支援」、訓練の効果をデータで検証する「研究」です。見守りセンサーや移乗支援ロボットのように、人がやっていた作業を機械が代わりに行う「活動代替」も進んでいます。

ただし、最終的な判断と責任は専門職である人間にあります。授業で紹介した米国の再犯予測AIのように、AIが偏見(バイアス)を学んでしまうこともあります。AIの結果を鵜呑みにせず、価値基準を与えるのは私たちです。

4. 臨床で考える:直感よりデータを起点に

第1回でいちばん覚えてほしいのは、「先入観ではなくデータを起点に考える」姿勢です。

私たちは日常、直感(速い思考)で判断しています。速くて省エネですが、先入観にとらわれる危険があります。「若いから回復が早いはず」と思い込んでいたら、データでは年齢より活動量のほうが回復と関係していた、ということが起こりえます。

「筋力が強い人は速い。だからAさんも速いはず」と前提から結論を導くのが演繹的推論です。手間は少ないものの、前提が誤ると間違えます。一方、50人の握力と歩行速度を測って「握力が強い人ほど速い傾向」と結論するのが帰納的推論です。手間はかかりますが、実態に即した結論が得られます。前提があいまいで先入観に左右されやすい臨床の場面ほど、データで確かめる帰納的推論が力を発揮します。統計学は、この帰納的推論を正しく行うための道具です。

まとめと次回予告

第1回の要点は3つです。

  1. データサイエンス=データ×数理モデル×専門知識。昔からあるが、3つのブレークスルーで今注目されている。今のAIの多くは特化型
  2. データの出どころは調査・観測・実験・行動ログ・マシンログの5種類。構造化・非構造化の区別と、正解ラベル(アノテーション)の貴重さ
  3. リハの現場でも活用が進む。直感よりデータを起点に(帰納)。AIを鵜呑みにせず、価値基準を与えるのは人間

第2回は、可視化・予測・生成AIといった「技術」とデータサイエンスのサイクルを学び、グループワークで事例を発表します。次回までに、将来働く現場で「データ・AIが役立ちそうな場面」を1つ考えてきてください。

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