【ブログ】統計学 第5回のポイント:データを説明する
2026年11月5日
はじめに:「読む」から「説明する」へ
第3・4回でデータを「読む」方法を学びました。第5回は、読み取ったことを相手に「説明する」回です。ゴールは3つ。目的に合ったグラフを選べること、「比べる」ときの落とし穴を説明できること、Excelでグラフを作って図表のルールで整えられることです。
後半はPC演習で、訓練群と対照群の10m歩行時間から箱ひげ図と棒グラフを作りました。この記事では、臨床の例を中心に要点を振り返ります。
1. グラフは「何を見せたいか」で選ぶ
数字の表は「正確」、グラフは「速い」。データを説明するとは、相手が一目でわかる形にすることです。グラフは6種類を、見せたいことで使い分けます。
疾患別の患者数のように量を比べるなら棒グラフ(縦軸は必ず0から)。疾患の内訳(%)なら円グラフ(項目は5つ程度まで、大きい順に時計回り)。握力と歩行速度の関係なら散布図(点を線で結ばない)。週ごとの歩行距離のように時間による変化なら折れ線グラフ。病棟×時間帯の転倒件数のように「どこで・いつ多いか」なら、色の濃さで示すヒートマップです。

分布とばらつきを見せるのが箱ひげ図です。箱は真ん中50%の人の範囲(第1四分位数Q1〜第3四分位数Q3)、箱の中の線は中央値、ひげは最小値から最大値、極端な値は外れ値として点で表します。入院患者20人の10m歩行時間(模擬データ)なら、Q1=9.0秒、Q3=12.6秒で、箱の長さ(四分位範囲IQR)は3.6秒。IQRの1.5倍(5.4秒)をQ3に足した18.0秒を超える21.5秒は外れ値です。外れ値は消すのではなく、まず測定ミスか本当に遅い人かを確かめます。

箱ひげ図はグループの比較に強い図です。3つの病棟の在院日数を平均の棒グラフだけで見ると「ほぼ同じ」ですが、箱ひげ図にするとAは安定、Bはばらつきが大きく、Cには外れ値がある、と中身の違いが見えます。

2. 「比べる」には条件をそろえる
「病院Bのほうが早く退院できるから優秀」。本当でしょうか。病院Aは脳卒中が70%で平均78歳、病院Bは骨折が60%で平均65歳なら、病院の違いに疾患・年齢・重症度の違いが混ざっています(第4回の交絡)。疾患と年齢をそろえて比べると、差はわずか38日対36日でした。比較の基本は、比べたいこと以外の条件をそろえることです。
2つ目は前後比較です。筋トレ4週間の前後で握力が18.4kgから21.5kgに上がれば、効果は3.1kg。ただし落とし穴があります。時間がたつだけで良くなる自然回復、測定に慣れる学習効果、季節や体調の影響です。訓練をしなかった対照群も2.2kg増えていたなら、訓練だけの効果は3.1−2.2=0.9kgにすぎません。前後の差だけでは効果と言えず、比較の相手(対照群)が必要です。

3つ目がA/BテストとRCTです。Web業界では、予約ボタンの文言だけを変えて訪問者をランダムに半分ずつに分け、クリック率で判断します。医療版がランダム化比較試験(RCT)。脳卒中患者100人をランダムにロボット歩行訓練群と通常訓練群に分けて4週後の歩行速度を比べれば、年齢・重症度・やる気の影響が両群で同じくらいになり、効果の証拠として最も信頼できます。

3. だまされないグラフ、だまさないグラフ
立体(3D)の円グラフでは、手前の「運動器35%」が奥の「脳血管40%」より大きく見えます。立体・影・遠近は、値を誤って読ませる原因になります。

満足度「病院A 88%・病院B 85%」を縦軸84〜89%の棒グラフにすると、3ポイントの差が何倍にも見えます。棒グラフの縦軸は0から、装飾はしない、が鉄則です。

見る側のチェックリストは5つ。縦軸は0から・目盛りは等間隔か、立体や装飾で誇張していないか、n(人数)と単位があるか、何と何を条件をそろえて比べているか、出典は明らかか。
同じルールは作る側にも当てはまります。医療者の図表は「正確さ」が信頼の土台。相手をだますグラフを作らないことが、データで説明する人の責任です。
4. 図表のルールとExcel演習
レポートや論文の「図」には5つのルールがあります。①軸ラベルに単位を入れる(握力(kg))、②凡例で色の意味を示す、③図番号とタイトルは図の「下」に書く、④n(人数)を書く、⑤縦軸は0から・色は1〜2色。図だけ見ても内容がわかるように作ります。

「表」は逆に、番号とタイトルを「上」に置き、単位は項目名に入れ、小数点の桁をそろえ、横線だけで組み、平均±標準偏差の書き方を統一します。表は正確な数値を示し、図は傾向を見せるものなので、同じデータを両方で出さないのが基本です。

演習では、訓練群10人・対照群10人の10m歩行時間(模擬データ)から、箱ひげ図と平均の棒グラフを作りました。平均は訓練群9.4秒、対照群12.3秒。対照群の18.2秒は外れ値として点で表示されます。棒グラフは平均を、箱ひげ図は分布を見せる図です。
結果は型に当てはめて1〜2文で書きます。「訓練群の中央値は○秒で、対照群の○秒より短かった(図1)」のように、数値を単位つきで書き、図を引用し、比べた相手を必ず書く。そしてRCTではないので「効果があった」とは言い切らない。これは第15回の発表の「結果」の書き方そのものです。
まとめと次回予告
第5回の要点は3つです。

- グラフは「何を見せたいか」で選ぶ。量=棒、割合=円、関係=散布図、時間=折れ線、分布・ばらつき=箱ひげ図・ヒストグラム、多さ=ヒートマップ
- 比べるときは条件をそろえる。前後比較には自然回復の落とし穴があり、ランダムに分けるA/Bテスト・RCTが最も信頼できる
- 縦軸は0から、3Dにしない。図はタイトル・軸・単位・凡例・nをそろえて「図だけで伝わる」ように。作る側もだまさない
第6回は、教育用標準データセット(SSDSE)を使った記述統計の演習です。実データを集計し、グラフにして説明します。事後課題は、演習で作った図を図表のルールで整え、説明文とともに提出することです。

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